
水のはなし
天然水の人びと
アクアセレクトGMの竹本大輔による水紀行
第37回 浦村奇跡の牡蠣編2
見事な大粒の「浦村牡蠣」。一年物のこの牡蠣はクセがなく、牡蠣嫌いを好きにさせるという。

時計と反対周りの海流と梅雨時の雨
竹本
伊勢湾の海水の流れが「時計と反対回り」なんですか?
村田理事
そうなんです。時計と反対回り、つまり左回りです。木曽三川や櫛田川、宮川の水が、ここ生浦湾(おおのうらわん)に流れてくるんです。そして太平洋を北上している新鮮な海水が流れ込んでくる。それでこの湾口部分で上手いこと微妙に交じり合って、牡蠣の生育に影響してくるんですね。これ伊勢湾の海流が時計回りだとしたら、海水ばっかりになるってことなんですね。
山本支所長
牡蠣の餌は植物プランクトンなんさ。でその植物プランクトンの餌が窒素やリンなどの水中に含まれる栄養分。これが河川から流れ込むために、海水と真水がよいバランスで混ざっていることが重要になる訳やね。
村田理事
少し極端かもしれませんが、牡蠣だけやのうて、他の海産物もここ鳥羽なんかは有名でしょ。
竹本
そうですね。伊勢エビしかり、アワビしかり。このあたりは本当に美味しいもんが多い。
村田理事
そうです。そうです。実はここは昔、江戸前といって東京湾とよく似た海流なんですね。
山本支所長
宮川の水や櫛田川の水もそうですし、木曽三川の水も岸をぐるっと回る訳ですな。
竹本
なるほど~!初めて知りました!!
山本支所長
そやで、この雨の影響ってのは、ものすごく大きいんさ。そうやから、今「漁師が森を育てよう」という動きが出てきたんやね。
竹本
なるほどなるほど。東日本大震災の際にも牡蠣養殖業者の方が森を再生しようという活動が報道されましたもんね。
山本支所長
そうさな。やっぱり川から流れてくる水っちゅうのは大事なんやね。宮川は水がエエけど、災害も大変やろ?
竹本
そうですね。毎年、梅雨の時期と台風の時期はヒヤヒヤしますもんね。ニュースのテロップで雨量流れますでしょ「大台町○○mm避難指示」とか。そうすると、全国から心配のメールとかをいただいたりします。
山本支所長
そうさなぁ。宮川は大変やと思うよ。でも、あの災害が仮に無いんやったら、梅雨時期の雨は欲しいわな。梅雨時期に雨が少ない時は、牡蠣の味もあんまし良くないからね。
竹本
へー。梅雨に雨が多いと、牡蠣って美味しくなるんですか!?
山本支所長
やっぱりプランクトンの発生率が違ごうてくるのか、餌が豊富やとよう肥えるから、美味しいね。うちの場合は一年で出荷やからね。その年の梅雨時の雨の量ってのがだいぶ影響あるわな。
竹本
なるほど~!!災害は困るけど、雨は多い方がいいと。
村田理事
これがその様子です。ランドサットからの映像なんです。これが宮川なんです。
ランドサットの捉えた海流と真水の流れ。なるほど、宮川河口から、櫛田川河口から、時計と反対回りに水が流れ出している。

竹本
ホンマや!流れてきてますね~!宮川の水がこの湾をかすめてますね~!
村田理事
これは大台町にある「総門山(そうもんざん)」から撮った「海の博物館」の資料なんです。こういったことを浦村町の中学生が研究したり勉強したりしてるんです。
竹本
良い活動ですね。でもこれって宮川の中学生や、木曽三川沿いの中学生、名古屋市の中学生とかが勉強すると面白いかもしれませんね。自分たち川沿いの人間みんなが、実は浦村の牡蠣の生育に関わってるねんで。だから川をきれいにせなアカンなって。
そうなると伊勢湾だけでなく、木曽の山奥や宮川の山奥の子どもたちと、この浦村の子どもたちの交流なんかも出来て、わりと面白いと思うんですが…
そうなると伊勢湾だけでなく、木曽の山奥や宮川の山奥の子どもたちと、この浦村の子どもたちの交流なんかも出来て、わりと面白いと思うんですが…
村田理事
それはエエかもわからんね。面白いなぁ。
漁業組合の目の前。穏やかに見えるこの美しい海も、海水と真水が微妙に交じり合うという生態系の見事なダイナミズムに溢れている。


竹本大輔