水のはなし

天然水の人びと

アクアセレクトGMの竹本大輔による水紀行

第3回 元坂酒造さま 幻の酒米「伊勢錦」

幻の酒米「伊勢錦」

元坂
お米も作ってるんですけど、酒米で「伊勢錦(いせにしき)」というのがあります。
竹本
現在、日本酒の酒米はほとんどが「山田錦(やまだにしき)」ですよね?
元坂
そうですね。酒米の最高峰が山田錦と言われています。
ただね、昔の酒の本を読むと「三重県伊勢錦」って言葉がよく出てくるんでるんですよ。「何匁(なんもんめ)」という言葉も出てくるんで、明治時代の文献ですね。
ただこちらに帰ってきて、聞くと誰も知らない。
竹本
伊勢錦をご自身で栽培されていると聞いたんですが、そのきっかけはなんだったんでしょうか?
元坂
平成元年の2年ほど前に牛肉やコメの自由化の話がありました。
その時に農協の人がうちにきて、米を買うてくれ、米の供給先になってくれという話があったんですね。
ただコシヒカリとかは使わないんで「酒米やったらウチが供給先になりますよ」という話をしたんです。
その時に何の米を作るんや?という話になった。
それで農協は山田錦を作るわ、と言う話やったんですけど、ちょうどその時、伊賀に三重県産の山田錦の振興協議会が作られたんです。三重県の酒造組合の全体の取り組みとなったんで、これは大台町で山田錦作ってもしゃーないという話、伊賀から供給を受けることができるわ、という話になったんです。
それで、私の方から「伊勢錦」という三重県が原産の酒米があるはずや、という話をしてみたんです。
調べてみるとい昔の勢和村(せいわむら・今の多気町)の朝柄(あさがら)というところが原産地やと言う話が載っていました。それがすごく近くやったんですね。
その後なんと、三重県の農業試験場で「伊勢錦」が種子保存されているのを見つけてくれて、その一握りの種子から、作ったんです。
それで3年かかって酒造りができるくらいの量が取れるようになったんです。
竹本
すごいですね!ちなみに伊勢錦と山田錦との大きな違いってどういうところなんでしょうか?
元坂
一番は味。味が山田よりもすっきりしている。
ただ、山田ほど味が出ない。お酒を造る分には支障はないんですね。
伊勢錦は使いやすいと思います。
一説には山田錦の親とも言われているんです。
竹本
なるほど伊勢錦が品種改良されて、山田錦になって全国に広まったと。
元坂
そうなんです。
いろいろ山田錦については説があるんで兵庫の農業試験センターの人なんかも「山田錦はもともと伊勢錦やった」と言うんですわ。
その辺の話をするともっと長くなるんですが(笑)
旧宮川村でも、小切畑(こぎりはた)地区で作ってもらっていました。
竹本
伊勢錦であるデメリットはどんなところでしょう?
元坂
デメリットはとんでもないんです(笑)。
背が高くなる。コシヒカリより30センチは高くなる。今と一緒の作り方をしたら出来過ぎるんですね。
今やったらコシヒカリやったら100粒くらいやと思うんですけど、伊勢錦は200粒つくんです。
その上その粒がコシヒカリよりはるかにデカいんですよ。それで背が高いんで、絶対に倒れるんです。
最初は農家の方もコシヒカリのような作り方をするんですけど、いろいろ指導してもらって、肥をできるだけ控えるとか茎を丈夫にしてあまり量を取らないようにしました。
また、1ヶ月栽培期間が長いんですね。このあたりは台風が多いんでお盆過ぎには刈り取りますよね。
それが1ヶ月後になる。台風のリスクが高いわけです。
竹本
ぼくらも「アクアセレクト田んぼのオーナー制度」というのをやっていて、これは中山間地(ちゅうさんかんち)の耕作放棄地を復活させようという取り組みなんですが、収量が取れないときは取れない(笑)。
元坂
この辺りでは、うちがいま一番の米を作ってる農家なんです。
昔はうちでは農家の方にお米を作ってもらっていたんですが、その農家の方が、高齢化してきた。
ひと月も余分にやりたくない、背は高い、刈ろうと思たら台風来るのでエラい(しんどい)、となったんですね。
そんな状況で、貸していた田んぼがいっぺんに返ってきたんですね。
うちも困ったんですが、荒らしとく訳にいかんし、それで自分で作ってみようと思って。
竹本
なるほどチャンスだと思われたんですね。
元坂
チャンスと言うか、夏の時期がヒマなんでね(笑)。
それで、やりだすと面白くて。
竹本
何が面白いんですか?
元坂
農業を見てると、水も冷たいし大変やなぁ思っとったんです。よーやるわ、と。
ところが自分でやってみて、面白いでやっとんねんな、と気づいたんですね。
楽しんでやって、なおかつ収穫ができて、なおかつ食べれて、そして売れて。
こんな面白い話、はないなと。なかなか採算は合いませんが、それで続けています。
竹本
ぼくらもそのオーナー制度で過去に合鴨農法をやったことあるんです。面白いんですけど、鴨が逃げる。
網を張ってるんですけど、毎晩のように「あんた鴨が逃げたで。捕まえにおいで」と電話がかかってくる。
それで朝3時に名古屋を出て、5時くらいから鴨を追いかけまわして6時に捕まえる。
それから、9時の始業に間に合うように名古屋に戻って。
大変でしたけど、面白かったですね。
元坂
今では品種改良もやってます。栽培しづらいので、背丈を短くしようとしました。
背の低いおばあさんが担ぐと、地面に着くくらい長いんですよ。
10年以上「選抜固定」の手法で短いのを選んで種子を取って…を繰り返したんですね。
短幹の伊勢錦を作ったんです。それで幾分か育てやすい伊勢錦になりました。
竹本
一握りの種子から、そこまでやられたとはすごい執念ですね。
元坂
三重県でもっと広まって、三重県のブランドとして確立できればうれしいですね。
醸造用に芯だけ残された酒米。デンプンを上手くアルコールと二酸化炭素に変えるため、外側が削られたものになる。
文字通り「磨かれた米」たちが醸造を待つ。
まさしく執念だ。一握りの保存されていた種子から、幻の酒米を復活させる。それを10年以上かけて品種改良する。「伊勢錦(いせにしき)」は幸せ者だ。「万事行動あるのみ」という言葉を実感させられた。伊勢錦の実りのころ、また訪れたい。
竹本大輔

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